その一言は、慶兄の言いたい事全てを意味していた。
吐き出しそうになる溜め息を、ぐっと飲み込んで顔を上げる。
目が泳いでいる気がしたが、そんなモノ気にも止める事なく不細工に口元だけで笑って見せた。
ほろ苦い感情で、自分が可笑しくなりそうだ。
必死にそれを押し留め、やり過ごすように誤魔化した。
「大丈夫だって。そんなんじゃないから」
「……そうか」
俺の言葉に、少しだけ間を空けた慶兄が、ふっと笑ってから視線を逸らす。
俺に言いたい事は、きっとまだまだあるに違いない。
でも、俺の気持ちを優先してそれ以上は言わない慶兄に、申し訳なさに心の中で謝った。
それからは、何事もなかったかのように他愛もない会話が続けられた。
これからあるテストの事。
クラス、学年、学校行事。
所謂、保護者代わりでもある慶兄には、これからたくさんの負担が掛かってしまう。
それを快く引き受けてくれた慶兄には、これから先益々頭が上がらなくなるのだろう。
頻繁には顔を合わす事はできないが、やっぱり感謝してもしきれない。
鬼畜で俺の天敵でもあるが、それは全て俺を思っての事だとは、自分自身がよく分かっている。
「とりあえず、体壊さない程度に遊ぶんだぞ」
「普通そこは勉強しろじゃねえの?」
「…お前の場合遊びの方だろう」
好きにやらせてくれる家族にも、感謝しなければならない。
でも、口下手な俺は、それを言葉で表現する術を知らない。
でも、どうやらその答えは。
「ま、早く彼女付くって、親父とお袋を安心させてやるんだな」
「……。」
そんな事が、親を安心させるだなんて、予想もしなかった俺は固まるしかなかった。

