何だか今までの事が、夢だったんじゃないかとすら思える。


いつまでもぼーっと突っ立っていた俺は、気を取り直して自分の自宅マンションへと足を向けた。



当然の事ながら、部屋には誰もいない。



ドアを開け、真っ暗闇の中は照明をつけなきゃ、いつまで経っても真っ暗なまんまだ。


1人になると、考える事が多すぎて、話す相手も居ないから心細くはないと言えば嘘になる。



少しは馴れたには違いないけれど、今日はまた一段と考える事が多そうだ。



無造作に鞄をソファーに投げ捨て、テレビを無意味に付けて乱暴にソファーに沈み込む。



一人暮らしには広すぎる部屋に、テレビから流れる音声が、虚しく響く。




ももの横顔が、頭から離れなかった。




「あ〜…どうしたもんかな……」



考えても、答えなんて誰も教えてくれない。


胸に引っ掛かる何かが、喉に刺さった魚の小骨のようにチクチクと刺激する。


変な胸騒ぎが、気のせいだといいのに、なんて。意味の分からない感覚に胸がモヤモヤとして吐き出してしまいたい。



俺にできる事はないのか?



そんな事を思ってみても、何をどうすればいいかなんて分からない。


なによりも、理由が分からないのだから。



あのももの寂しそうな横顔を、拭い去れたらいいのに。



俺は何ができる?ももに何を言ってやれる?


気持ちは急かすばかりで、具体的な考えなんて結局でなかった。







そしてこの出会いが、後に俺人生を大きく変える事になるなんて、今の自分には全く予想もできなかった。


いや、もうすでに、ももと出会った時点で、大きく変わっていたのかもしれない。






抜け出せない迷路に迷い込んでしまった事に、今の俺は全く気付きもしなかった。