「松風君は珈琲党?それとも紅茶がいいかな?」
「すみません。じゃあ、珈琲で」
引き摺られるようにして連れられた玄関に、本当に躊躇する暇なんてなかった。
そして、あっという間にリビングへと連れられた俺は、またしてもその場の光景に驚愕する事になったのだ。
「―――……そうかあ。松風君は1人でこっちへ出てきたのか」
「はい。あ、でも。兄がこっちに居ます」
「ほう…お兄さんが居るのか〜。お兄さんは仕事で?」
「兄は大学生で…確か今はインターン中だと思います」
リビングに入った途端、向けられた鋭い視線。
思わず顔が引きつってしまったのは、無理もない。
もものお父様が、広いリビングのそれまた広いソファーでおくつろぎの所に、ドタバタと登場してしまったのだ。
予想はしていたが、そこには紛れもなくもものお父さん。
ギクリとしたものの、矢継ぎ早で説明をしてくれたおばさんによって、おじさんの眉間の立派な皺は解かれたのだ。
「おぉ、すごいなあ。医者か」
「えっ、松風さんのお兄さんお医者さん!?イケメンドクター!!」
「まあ、優秀な方なのねえ!!ももと勇磨も、見習いなさいよ〜」
1人だけ話の輪に入ってこようともしないももは、静かにアップルパイにフォークを突き立てる。
ザクザクと小気味よい音を立てながら崩していく様は、何故かイライラしているようにも見える。
やっぱりその横顔は、冷めたようにしか見えず、どこか諦めてしまったようで、意識なんてない。
あんなに元気そうだったのに……帰ってきてから様子が変だ。
一体……―――。
「松風君は予備校とか通ってる?」
「いえ…行ってはいませんけど」
「そう…沢山ありすぎてどこが良いのか分からなくて。家庭教師の方がいいかしらねえ?」
そんなおばさんの言葉に、思わず驚いて顔を上げた。

