「っ…!!」
健はバットを必死に止めた。
「………っ…ス、ストライクっ!!!!」
「っし!!」
よしっ入った!!
選球眼のいい健からストライクを取るのは難しい。
健は3番より1番にあっているようなバッター。
つまり四球(ファーボール)で出塁もするし、自分のバットでも出塁する人間だ。
そんな健からのストライクは、本当に嬉しい。
左にいる篠岡は、なんだか驚いた顔をしていた。
思わず嬉しくて顔が緩んだ。
次の球を投げるために顔を上げると健がまた俺を見ていて、ハッとした。
健はまたあの顔をしていて、緩んでいた顔はいっきに締まった。
健には…。
いや、全員か……
特に健は一瞬の緩みも許せない。
『アウトハイ(外角高め)にスライダー』
カキィィィンッ
「サードっ!!」
瀬田が、少し後に下がっていたサードの内海に叫んだ。
内海は鋭い打球を捕ってファーストの一番谷に向って投げた。
「セーフ!!」
「ナイバッチ水畑ぁーっ!!」
「ナイスランッ!!」
健は1塁上でベンチに向って笑っていた。
この健はいつも俺が見ている健で、でも、いつもより近くて違和感があった。
目の前にいる相手がレギュラーに、俺がグラウンドの中心に立っている。
それが本当に変で、変で、何も言えなかった。
でも、目の前にいる瀬田は真剣な目をしていて、これは現実なんだって思った。


