高志はあの満員列車で高志は完全にのぼせあがり、文字どおり緊急避難でここに連れこまれたのだ。

「まあいい、考えてみればたかが喫茶店だ。む、・・・・・・薄いなこれは」

と、
カップに口をつけた弓倉が文句を言う。

その顔がやや真剣だったので、高志は弓倉に聞いた。

「先生は濃いコーヒーが好きなんですか?」

「うむ、学生時代に徹夜実験の相棒を勤めさせられてな、だんだんとエスカレートしていった」

高志のもとに漂う、コーヒーの匂い。

「でもそれって、健康に悪そうです」
「ほう」

カップの向こうから、高志を見つめる弓倉。

「あ、ごめんなさい。ただ、そう思っただけです」

「ふふ、私の健康を気にしてくれる異性の言葉を聞くのは久しぶりだ。新鮮な気持ちだ」