ぐいっ。

そう、あの時はこうやって助けられて。

むにゅ。

そう、こうやって先生の身体にくっついて。

むにゅ、むにゅ、むにゅう。

ああ、先生は柔らかかったなあ・・・・・・。

「・・・てっ、あれ?」

と、
ようやく助けられたことに気がつき高志が目を開けると、階段での事をそっくり再現した角度で弓倉の顔が見えた。

片手はしっかりと高志の腰を抱き、
片手はそれ以上にしっかり高志の頭を守っている。

高志は弓倉にしばし見下ろされ、

「・・・難儀だな、少年」

本当に身体のすぐ近くでその声を聞いた。

「弓倉先生?」

瞬間、
カーブで列車が傾き、中の乗客も一斉に傾く。

むにゅっ。
申し合わせて弓倉へと突入してしまう高志の顔。

「ぷわっ、わ、ごめんなさい」

これ以上なく慌てて高志が顔をあげると、
弓倉は怒った様子もなく言う。

「謝ることはない。謝る気持があるなら役得に感謝しろ。ただし声には出さずにな」