高志がその列車に乗ったのは街の本屋に行く為だった。

『背が伸びる本』というありがちな雑誌広告を見て、街の大型書店で売っている本だと知り、この列車に乗ったのだ。

だが土曜日の午後。
列車は高志の予想以上に混み合い、
押し潰されるように列車に乗り込まされ、実際、今、押し潰されつつあった。

うわっ、わ~。
四方から押し寄せる重圧。

ここで倒れたら二度と置き上がれないことは確実。
懸命に耐え、目的地に一刻も早く着くことを願うのみ。

で、
やっと次の駅についたかと思えば、一気に増えた乗客に飲み込まれた。

「・・・・・・あ・・・あっ・・・ぷ・・・」

立ち位置を失い、車両の中央に有無を言わさず押し込まれる。
途中で足がもつれ転びかけたところに容赦なく襲いかかる人の壁。

片足が自分の意思とは関係なく浮き、それが床に着く前に、もう一つの足が浮き上がろうとする。

転ぶ!

そのとき何日か前の階段での出来事を思い出す高志。

あのときは弓倉先生が助けてくれたんだと思いつつ、今日はこのまま転ぶしかないと諦め、目を閉じた。