世の中は偶然と必然があふれている。
物語も同様。




階段で少年を抱き上げてから数日。
土曜の午後。

弓倉がその列車に乗っていたのはちょっとした買い物の為であり、

そこを起点とするならば、
同じ列車の同じ車両にその少年が乗り込んできたのは偶然。

休日の混み合いの中で、
その少年だとすぐに気がついたのは必然ということになる。

確か名前を高志といった小柄な少年は、ドアの近くで人混みに溺れて立っており、車両の中央でつり革につかまる弓倉には全く気づいていない。

いや、
周りに気を配る余裕などなく、
大人達に押され、倒れないようにしているのがやっという様子だ。

あっぷあっぷと懸命にバランスをとっている少年。
弓倉の目の中でその頭が乗客の影に見え隠れして、ときおり本当に見えなくなっては、ぷはっと浮きあがってくる。

間隔があまりに長いものだから、弓倉は目が離せない。

そして予想通り、
列車が次の駅に停車すると、

ドアが開くと同時にどっと踏み込んで来た新たな乗客に高志はあっという間に流されてしまう。

「・・・・・・あ・・・あっ・・・ぷ・・・」

声にならない叫びを上げながらこちらに向かって漂流してくる高志。

だから、
弓倉は必然として、
川を流される子犬を救うような気持で傍らを流されていく高志に腕をのばし、ひろい上げることとなった。

「難儀だな、少年」

助けた子犬、もとい少年にかけた弓倉の第一声はこれ。