夏前にも関わらず、目を刺すようなイルミネーションの、隣接する店よりも大きめな店。
その店に何の迷いもなく入る。まだ入り口のプレートがクローズになっているが気にしない。

カランカラン、とドアに付いたベルが鳴る。
開店前だからか、慌てたように制服を着こんだウェイターが飛び出てきた。
俺はその人に軽く会釈をする。向こうは向こうで、俺だと気が付くと、険しかった表情が和らいだ。

俺とその人は顔見知り。母親がこの店に入った時から、この人はこの店にいた。名前は成瀬智也(ナルセトモヤ)という、この店の結構偉い役職の40代後半の男。



「やあ、旭くん。」
「こんばんは。…親は何処に?」
「あぁ、光希(ミツキ)さんなら、奥の控え室かな。呼び出されたのかい?」
「まぁ、そんなところ。…呼んでもらえますか?」



光希は、俺の母親の本名であり源氏名。
成瀬さんは少し考えた後、俺にニコリと微笑んだ。



「開店間近だから、今呼び出すのは難しいね。…旭くん、直接会いに行ってもいいよ?」
「……え?良いんですか?;俺みたいな部外者が入って。」
「旭くんならみんな歓迎してくれるだろうし、その方が手っ取り早いでしょ?」



確かに、その方が早いには早い。…が、しかし、本当に良いのだろうか…?

その迷いを抱えたまま、成瀬さんに促されるがままに、カウンターの奥のドアをくぐった。