「旭(アサヒ)〜!悪りぃッ、勉強見てくんねぇ?」
「良いけど、…珍しいな?」
「仕方ねぇんだよ。次のテスト“赤”取るとやべぇからさぁ。俺を助けると思ってさ、協力してくんね?この通りッ!!」



放課後、帰る支度をしていると、1年の時からのクラスメイトである宮野大地(ミヤノダイチ)が俺の元に駆け寄ってきた。

高校2年生の現役野球部員。
黒く焼けた肌と、らんらんと光を宿した瞳が、青春を謳歌しているということをこれでもかという程に訴えているように見える。

その勢力を全て部活に注ぎ込んでいる所為か、勉学には無関心、と言うか、そこまでの余力が無いというのか、兎に角、成績は良くなかった。



「良いよ、見てやる。」
「マジでッ!?」
「けど、部活はいいのかよ?」
「野球部にだってテスト休みはあるって。それが無くて、テストでも良い点取れなんて、絶っ対無理だろ?」
「そりゃ、そうだな。」
「とりあえず助かるわ、ありがとな。」
「じゃあ、早速始めるか」
「ぇ"。もう始めんのか?売店行ってから…。」
「お前にそんな時間あるのかよ?」
「うっわ。スパルタ〜;;」



申し遅れたが、俺は津田旭(ツダアサヒ)。帰宅部所属のごく普通の高校2年生。
強いて言えば、成績が多少良いくらいで、特に目立つことも無い。

ちょっと待ってて、と慌ただしく売店へ走っていった宮野を見送る。
まだ帰らないことが決まったから、帰り支度を止め、椅子に座り直す。

ふと目に入った自分の携帯電話。そのミニディスプレイのライトが点滅しているのに気付いて、それを手に取り開く。
母親からのメールだった。



「旭ッ。5分で帰ってきたぞ…!」
「う〜ん。…30秒遅かったなぁ」
「細かすぎんだよっ!」
「野球って、その数秒の勝負なんじゃなんだろ?」
「ぅ"…。お前痛いとこ突くなよ…。」



冗談を笑いでふり飛ばして、さあ集中ッ!、とげきを飛ばす。
…帰れるのは、何時頃になるだろうか…?