男の名は、ビルホーク・アイスランド。

この船…『うさぴょん号』の整備士だった。

年の頃なら50代半ば程である。

整備士らしく、上下はつなぎの作業服を着ている。但し油まみれでかなり汚れているため、元が何色だったのかは、判別がつかなくなっていた。

皆には「ビル艦長」と呼ばれているが、当然艦長などではない。

禿げ上がった頭に、揉み上げから口の周りや、顎などにかけての白髭で覆われている容貌が、トヲルが抱く艦長のイメージとピッタリだった。

が、一番の理由は、いつも艦長のような帽子を被っているから、とのことである。

鷹を形取ったエンブレムの付いている白い帽子を、いつも愛用していた。

これでパイプなどを銜えていれば完璧なのだろうが、生憎いつも持ち歩いているのは、パイプなどではなく、酒瓶だった。

本人はいつも赤ら顔をしていたが、それが酒によるものなのか、そういう体質なだけなのか、トヲルには判断できなかった。

かなり飲んでいるはずなのだが、普段の言動や行動などが、全く普通なのである。酔っている感じもしなかった。

それに酒を飲みながら船の整備のような、細かい作業はできないとも思えるのだが、ビルホークの場合はその逆で、飲まないと全くやる気が出ず、いわば気付け薬のようなものだというのである。