今入院しているのは、検査のためだった。

確実な治療法がないのだという。ミレイユの記憶がいつ戻るのかは、現段階でも分からないらしい。

「それにできれば…このまま思い出さないでいてくれたほうが、あいつにとっては幸せかもしれねぇしな」

父親が無惨にも、目の前で殺されたのである。

そのことを知らないほうが、思い出さないほうが――まだ行方不明で、何処かで生きていると信じていたほうが、心を痛めなくてすむ。

ミレイユは辛い思いをしなくていい。

――と、部屋の入口付近で物音が聞こえてきた。

二人の目に飛び込んできたのは、扉に挟まれ、短い手足でじたばたと藻掻いている船長の姿だった。