一瞬、何が起きたのか分からなかった。が、自分の腹付近に違和感を抱き、咄嗟に下を向いた。

血に塗れた一本の腕が、ソコから突き出しているのが見える。

しかしこの身に一体何が起きているのかまでは、まだ理解できていなかった。

背後にも気配を感じ、首を少し巡らせてソレを見詰めた。

「母…さ…?」

視界が急に暗くなる。変わり果てた無表情な母の顔も、同時に遠ざかっていく。

「あら、あなた…」

アイのその声が、最後だった。

ここでようやくトヲルは理解したのだ。

背後から母の腕が、自分の腹を貫通している、と気付いたのである。

だが既に遅く、意識はそこで途切れていた。