蜜花 -First.ver1-


透がまた手を振ってくる。
あたしは手を振り返さず、笑顔を返した。
でも感情も何もない。
空っぽの笑顔。

「あ…ねぇ、あの子じゃない?」

「あの子…?」

周りの視線が集中する。

足が震える。
顔が強張る。

「彩帆?」

詩織が声をかけた瞬間―…

あたしは走り出した。
グラウンドから逃げるように。
透から逃げるように。

「絶対違うよ!彼女なら最後まで試合見るじゃん!」

「だよね~!応援もしてなかったみたいだし、違うかあ。」

あたしは心の中で耳を押さえた。