透がまた手を振ってくる。 あたしは手を振り返さず、笑顔を返した。 でも感情も何もない。 空っぽの笑顔。 「あ…ねぇ、あの子じゃない?」 「あの子…?」 周りの視線が集中する。 足が震える。 顔が強張る。 「彩帆?」 詩織が声をかけた瞬間―… あたしは走り出した。 グラウンドから逃げるように。 透から逃げるように。 「絶対違うよ!彼女なら最後まで試合見るじゃん!」 「だよね~!応援もしてなかったみたいだし、違うかあ。」 あたしは心の中で耳を押さえた。