今更『好き』とか言ったら、アイツは何て言うと思う?

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らくがき犯の正体

渡舞子
松本航平
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「航平! 英訳見せて!!」

「嫌ー」

「ッなっ! 私、今日当たるんだから!」

「お前、この前の数学見せてくんなかったじゃん」

「小学生か!」

「何とでも言え」



一向に英訳を見せてくれる気配のないコイツ、松本航平。


昔からのサッカー馬鹿で

小学校からの腐れ縁。


……席まで隣だし。



「ケチ!」

「ケチで結構」

「……そんなだからモテないんだよ」


私がそう呟くと、航平はニヤッと笑った。

そして、机の左下を指差した。


「――!」

「俺を見てくれてる子は見てくれてるのさっ」


得意気にそう言う航平の指差した先には


『好きです』の文字。


「きっと俺のサッカー姿に……ってどこ行くんだよ!」

「隣のクラスで借りてくる!」

「おい!」


航平を無視して私は教室を出た。


あの場を早く立ち去りたくなったんだ。

だって……



あれ書いたの私だし!


* *


「航平と渡さんって付き合ってんの?」

「は?」


中3の時、航平とクラスの男子の会話を耳にしてしまった。


「付き合ってないから」

「そーなん? 仲いいじゃん」

「そうか?」

「実は好きとかないわけ?」

「ない。ありえないっしょ?」


そう言って航平は笑っていた。



私は航平が好きだった。

確証はなかったけど航平も同じ気持ちな気がしてた。


中学卒業までには伝えようと思っていたけど、言えなくなった瞬間だった。

航平との仲が壊れるのが恐かった。


でも、やっぱり伝えたいと思う気持ちがどこかにあって……

朝、航平が教室に来る前に書いたんだ。



私が書いたって気付いてくれたら……って、小さな期待を胸に。


* *