隣の席の男は単に隣の席の男であって、隣の席の男以外の何者でもない。

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隣の席の男

高坂玲
小柴聡史
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「高坂さんっ!」


私が席に着くや否や勢いよく名前を呼んできたのは、隣の席の小柴だ。



「おはよう」


朝から小柴に関わってイライラするのは嫌だと思い、無表情で挨拶をし、その場を去ろうとした。



「ちょっとどこ行くのさ!」


もちろん小柴は私を引き止めた。


「別にー」

「話聞いてよ! 頼むよ! すごく大事な話なんだ!」

「誰にとって?」

「俺にとって! マジで大問題なんだ!」

「……」


あからさまに嫌そうな顔をしているであろう私への小柴の説得は、きっと終わらないだろうと思った私は、仕方なく話を聞くことにした。



「で?」


席に座り直し、顔だけを小柴の方に向けた。


「聞きたいことあるんだけど……」


小柴の声は、さっき私を引き止めていた時よりもずっと小さく、勢いもなくなっていた。