兄弟のいない私にとって、“彼”は本当のお兄ちゃんみたいな存在だった。

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違うところ

市村千花
深見恭二
深見稜太
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「いらっしゃい」

「稜ちゃん!」


恭の家に遊びに行くと、玄関で私を迎えてくれたのは、恭のお兄さん、稜ちゃんだった。

恭はコンビニに飲み物を買いに行ったらしく不在で、リビングで待つことになった。



「稜ちゃん、いつ帰ったの? 何か用事?」

「昨日の夜帰ってきたんだ。特に用はないけど、たまには帰ってこないとね。なのに親父は出張、母さんはPTA支部会の集まり。淋しいもんだよ」


稜ちゃんはこの春大学を卒業して、今はスポーツジムでインストラクターの仕事をしていると恭が言っていた。


大学生の時から一人暮らしをしているから、会う機会は本当に少ない。



「千花ちゃんは? 恭と約束してた?」

「あ、うん」

「ごめんね、あいつから聞いてたら俺が買いに行ったのに」

「あ、大丈夫!……約束11時だったから」


私の言葉に稜ちゃんが時計を見上げる。

そして微笑んだ。


「早く来すぎちゃったわけね」

「はい……」


時計の長針はちょうど『9』のところを指していた。



「いいね! 若いってッ」


あ。

今の口調、恭にそっくりだ。


黒髪で、恭より背が高くて、大人な稜ちゃん。

でもどこか似ていて、やっぱり2人は兄弟なんだって改めて思った。



「識は元気にしてる?」

「うん」

「あいつにも会いたいなー。でもあいつ俺に会う度に嫌な顔すんだよね。俺に絡まれるのがそんなに嫌かね?」


そう言って稜ちゃんは苦笑いをした。