好きな人だから、言動の一つ一つが気になって。

* * * * * *
ボタン

桜田茗
橘識
深見恭二
市村千花
* * * * * *


「識、そこのボタン取れちゃったの?」

「……ああ」


千花の一言で、皆の視線が識のブレザーに移った。


2つあるはずのボタンは1つしかない。

上のボタンが取れている。



「ボタンは?」

「ある」


私が聞くと、識はボタンをポケットから取り出し、掌の上で見せると、またポケットに戻した。


――つけてあげたい!!

私はそう思った。


針と糸だって家庭科のがあるし!

……でも、何か恥ずかしい。


そんな私の想いを知ってか知らずか、恭からの助け舟。


「茗つけてやれば?」

「え!」

「1番上取れてるって格好悪くない? な! 識、つけてもらえば?」


恭に感謝する気持ちそっちのけで、ちょっと期待しながら識の様子を伺う。


そうだよ識!

1番上取れてるとか格好悪いよ!


「……1分でつけろよ?」


識は私の方を向かないまま、呟いた。


相変わらず無愛想だった。


でもでも!

許可してくれたのだ。


「1分じゃ無理!」


私は嬉しくて、顔の筋肉が緩みそうになるのを、誤魔化した。