「あなたはそういう人よ」

 さとるの頭の中に、香奈子の、道に転がる犬の糞にでもぶつけるような声がよみがえった。

 一週間前まで、香奈子とは恋人だった。

 最後の言葉は、氷の矢となってさとるの心に突き刺さった。

 香奈子は部屋を出る時、一度も振り返らなかった。

 さとると二年も一緒に住み、結婚の話まで出ていた。

 さとるは出て行く香奈子の冷たい後ろ姿を見て、一緒に暮らしていた日々が幻だったのではないかと自問自答したことをよく覚えている。