さとるは香奈子にあげるつもりだったトナカイのぬいぐるみを差し出した。

 男一人の部屋には似つかわしくない。

 見てしまうと、この日の事を思い出して悲しくなる。

 捨てるにしては少し勿体無い。

 女の心を慰める小道具としてはちょうど良い気がした。

「なに?」

 女は上半身をのけぞらせて言った。目は明らかに、さとるという人間を警戒している。

「これ、あげます。俺も、いま、完全にふられました。男ひとりの部屋に持って帰ってもしようがないし」

 さとるは忙しい女だなと思いながら言った。

「もらえるわけないでしょ。正直、気持ち悪い。馬鹿にしないで」 

 さとるは心が深い場所に沈むのを感じながら座り込んだ。

 止めを刺された気分だった。 世界の中で、自分の味方は誰一人いない気がした。