クリスマス恨み節



順調にケーキは売れ、閉店間際。


残りは、俺の一つだけ。


「取りにこないな……。電話するか?」
「大丈夫ですよ」


だって、俺のだし。
長谷川さんは、予約の客が取りにくると思っているようだ。


あと5分。
長谷川さんが笑ってくれたら……。


「すみません!」


えええ?


「いらっしゃいませ!」
「すみません、まだありますか? もう売り切れですよね?」


帰宅途中のサラリーマンだろう。
「帰りに買ってくるから」とか言って、売り切れで困るパターンだ。


「大変申し訳ありません、今日はもう完売で……」
「まだあります!!」


「イチゴサンド5号、15センチになっておりますが、こちらでよろしいですか」
「北野森、それ予約だろ!」
「いいんです、お客様の方が大事です」


レジの前で、サラリーマンが「本当にいいんですか?」と聞いた。
「はい。こちらで最後になります。このあたりはもう、スーパーありませんし」
「そうですか! いやあ助かりました、娘に叱られるところでしたよ」


袋に箱を入れ、20円のおつりを渡す。


「ありがとうございました!」