クリスマス恨み節



25日の朝は、思い切り冷え込んでいた。
しかも雨。


しかし、それでも三人のサンタは、それぞれのサンタクロース服に身を包んでいた。


今日が終われば、もう長谷川さんに会えなくなる。
俺は、軽いはずの持ってきたプレゼント袋が重く感じた。


「北野森さん、それ中身なに?」
「秘密」


今日で最後。


「今日で最後、即日完売!」
「即日完売!!」


午前9時、開店。


「いらっしゃいませ!」


俺は、サンタのプレゼント袋から、風船を取り出した。
朝から全部膨らませてある。
割れないように、袋に詰めるのはちょっとしたコツが必要だった。
風船の紐の先には、キャンディをひとつ。


俺も。
ちょっと本気を出してみようと思ったんだ。


俺はおもちゃ売り場の親子連れを狙って、風船を配り終わると、売り場に戻った。
長谷川さんがいないのを見計らって、予約伝票を書く。


「アヤノさん、これひとつ予約お願いします」
「北野森ってアンタじゃん。取りおきするの?」


「はい」
「ふーん」


「北野森、張り切ってるねー」
「アヤノさん、ちょっと」
「なにリリー」
「長谷川さん狙いじゃないですか?」
「……ああ~なるほどね」


長谷川さんは、正面玄関でチラシを配っている。


即日完売が基本の彼女。
全部売るだけじゃ、ダメなんだ。


俺はあなたの笑顔がみたい。


最後の一個は俺に買わせてください。