「地元だと、とっくに雪が積もってる頃なんだけど」
「名古屋じゃ、雪なんて降らないですからね。地元、どこなんですか?」
「弘前。青森県の」
「青森ですか……。りんごの」
「そうりんごの。ホタテも有名なんだけどな」
帰り道は雨。
「青森だと、いつもホワイトクリスマスですね」
「雪はキライだよ」
「え」
「星空が好きだ。今夜は晴れてるな」
名古屋では、12月に雪が降ることはめったにない。
「例えば、沖縄とかどうですか。ホテルのイルミネーションとか結構ハデにやるんですよ」
「ふーん。行ったことあるのか」
「ええ前に。例えば、オーストラリアとか。真夏なんですよね」
「北野森は」
「はい」
「お前、『例えば』って単語好きなんだな」
そんなつもりはなかったんだけど。
「うち、家が遠いんだ」
一人で帰る道は長く感じる。
雪は、強く激しい風が運んでくる。
肌を刺す雪の痛みは、人の心まで凍らせる。
……一緒にいたい人が、いたはずなんだけど。
長谷川さんは、小さく笑って肩をすくめた。
「イベント時はいつも仕事でさ。家帰ったら、彼氏が別の女と寝てた」
「……」
「好きでしてる仕事なのにな。『俺より仕事とる女なんて可愛くない』とか言われるんだよ、いつも」
「そんなオトコ、やめればいいじゃないですか」
「……そうだな」
「待っててくれる人がいればいいんだけどな」



