幻妖奇譚

 インターホンとノックを繰り返す中原くん。

「沙希! いるんなら返事してくれ!」

「……やだ……なんで来るのよ……? これ以上あたしを苦しめないでよ……ッ!!」

 ドアを隔てた向こうから“沙希”と呼ばれるだけで、まだあたしの胸は高鳴ってしまう。
 ずっと、ずうっと好きで、付き合える事になって嬉しくて夢のようで……だからこそ嘘だった事が悔しくて許せなくて、殺そうと決めたのに……。

「――んで……ッ!! なんでまだこんなに好きなのよッ!?」

 インターホンが鳴り止んで、静寂が戻った家の中、今度は電話が鳴り出した。

 コール音が5回鳴った後、自動的に留守電に切り替わる。

『沙希』

 ビクッ、と何かに怯えるように体が震え出す。

『沙希……そこにいるか? 俺に、会いたくない……って当然だよな! でも……どうしても伝えたい事があるんだ』

『確かにゲームだった……けど俺、沙希に告白するきっかけが欲しいだけだったんだ』

『ダーツなんかで適当に決められた奴が、沙希の隣りにいるなんて考えただけで耐えられなくて“俺がやる”って手ェ挙げたんだ。……でもあいつらの手前照れくさくて、マジで惚れてる、って言えなかったんだ』

『……今更何言ってんだって思われるかもしんねぇけど……俺、沙希の事……す』

 ピーッ、と機械音が空しく鳴り、録音の終了を告げる。

 しん、と静まった家の中、あたしの鼓動だけが響いている気がした――。