幻妖奇譚

 “お嫁”という言葉に反応し、中原くんの顔がポンッと浮かび、カーッと顔が熱くなる。

「……沙希。ゆでダコみたいだぞ?」

「え、えぇぇえっ!?」

 思いっきり挙動不審。パパに見られないように両手で顔を覆い隠す。

「沙希……、まさか好きな男がいるのか?」

「パ、パパ、ほらッ梨! 早く食べないと色変わっちゃうからッ!!」

 言及しようとあたしに詰め寄るパパ、と同時に電話が鳴った。

「あぁ、いいよ、パパが出る」

 誰かわかんないけど電話に感謝!顔の熱を引かせようと手で顔を扇ぐ。

 お嫁かぁ……。中原くんと結婚したら、中原 沙希になるんだ……――って、まだ早いからッ!!

 今日の事を思い出して、思わず興奮してしまう。

 そこに電話を終えたパパが上機嫌で戻ってくる。

「どうしたの? そんなに嬉しい電話だったの?」

「ああ……とってもね、久しぶりにいい気分だよ」

 どんな内容かを聞こうとしたけど、電話のお陰で中原くんの事を追及するの忘れたみたいだし……まぁいっか。

 この時のあたしは毎日が幸せで、これから訪れる絶望なんて、微塵も想像していなかった――。