『皇花様』


『ありがと…ケルベロス』

思慮深い赤い瞳が僕を見詰める。


『マスターは皇花様の気持ちは分かっておられますよ』


『そんな事無い! 何でも完璧な父上に僕の気持ちなんて分かる訳無いじゃないかっ! 』


『…完璧…ですか…』


そう言うと『不思議の国のアリス』に出てくるチェシャ猫みたいにケルベロスの口が大きくつり上がって笑みを浮かべる。


『…何? 』


『…マスターは…いえ…ご本人に聞いた方が良いでしょう』


謎めいたその微笑みを顔に張り付けたままケルベロスは行ってしまった。


『…なんだよ』


そんな事言われたら気になるじゃないか。


『…母上なら何か知ってるかも』


僕は足音を忍ばせ、歩き出した。