「なあ華奈」

夕ご飯を家族3人で食べていると、お父さんが真剣な表情で言った。

「なに?」

「横浜に引っ越すことになってん」

「え?なんで?」

「お父さん、大阪支部から横浜の本社に移動するねん。出世やで?」

出世。
普通なら喜ぶとこだよね。
でもあんまり嬉しくない。
お父さんもお母さんも嬉しくなさそう。
それはきっと、この村から離れなくちゃならないからだ。

「そうなんや」

私は奈良にある、とある村に住んでいる。
村というだけあって人口も少なく、森や田畑が広がるような田舎だ。

でも、私はこの村が好きだ。
みんな優しいから。
この村の自然が美しいから。

お父さんもお母さんもこの村が大好きだ。
2人はこの村で生まれ育ち、2人はこの村で恋におちたのだ。
かなり愛着があると思う。

「いつ行くん?」

「華奈が夏休みの頃ぐらいかな。」

今は7月の初め。
あと1ヶ月もないのか。