「もう少し、早く言ってくれればなあ…」

あくまで涙を堪えようとして、気丈に振舞うその声が痛々しい。
俺は俺で、顔すら上げれないでいる。

「本当は… 本当はね、私、ずっと待ってたんだ。君が、そう言ってくれることを」

そんなことは知っていた。だけど、知っていたのに、何もしてやれなかった。

そして、この後に紗子さんがなんて言うのかも、知っている。

「だけどね、もう、遅いのよ…」

重力に負けた涙がきつく握り締めた手の甲に落ちるのが見えた。

「もう、後戻りなんかできないのよ…」

                  ※

二人を見送った後に、家で待機していた。他に何もできる状態じゃなかったし、きっと広君から連絡が来るから。

だけど、待っている時間は意外に早く過ぎていった。

多分一時間くらいかなって予想してたら、ほんとにその位して広君からメールが来た。

「フラれたよ」

たったその一言が、とても重かった。

何もしてあげられなかったのが、いや、例え時間を戻してやり直すことができたとしても、私には何もできることなんてなくて

そのことが、私の胸を苦しめる。

痛いほどに、涙が止まらなかった。