「やらしー。」
「なっ」
眼は瞑ったまま、三月の口元がにやついて言ったので驚いて手をひっこめた。
「起きてたんなら言えよっ!」
「起きてたよ」
「遅いわ」
「……欲情したのー?セツナちゃん」
「してない!」
「俺の髪、触ってみてどーだった?」
「やらしいきき方しないでよ。どーもしないし」
眼がゆっくりと開かれて、大きな瞳が私を捕らえた。
「俺、セツがいらないっていうまでずーっと一緒にいてあげてもいいよ」
少し間を置いて、三月が微笑んで言った。
遊び人の顔ではなくて
物凄く優しい顔で
物凄く悲しい顔で
物凄く、切なくなって。
「ごめんってもう言わないでいいよ。愛し方がわからない人に無理にわかってもらおうなんて思わないから」
切なさに胸が絞められそうになる。
「セツの醜い心ごと受け止めれるよ。俺は愛せるから、それでいい」
「嫌になるよ」
声が震える
「――もうなってる」
三月はフッと笑って、手を伸ばした。頬に冷たい三月の手が触れる。
「一度ひいた線は消せないかと思ってた。」
「んー、そだね。消したのはセツだけどね」
「……ただの独占欲でしかないんだよ、私。」
「どんな形でもいいよ。俺ずーっと待ってたから。まぁ思ってたのとは少し違ったけど。セツらしいよ」
「付き合う事になるの、これ?」
「セフレでもいいけどー?」
「ふざけんなっ」
「嘘。他の女と一緒にしたくない、セツは。」
「――みつ……」
「どーゆう関係でもいいよ。いつもどーりで。セツの気がまた変わったら教えてよ。」
三月の身体が私の方に寄って、唇に触れた。
初めてするキスは
苦くて、どうしようもなく、切なかった。
