「ふー。腹いっぱい……」


ぼすっと、私のベッドに倒れこんだ三月が苦しそうに言った。

食べ終わって部屋で話すのも久しぶりだった。
昔は、よくあったな、なんて思いだす。


「寝ないでよ。」

「ん」

返事をした数秒後には、
寝息が聞こえてきて私は思わず笑ってしまった。
昔と変わらないなあ……って。

長い睫毛も、大きな瞳も、肌の白さも、何もかも。
――変わったのは私なのかもしれない。

ベッドに寝ている三月を見ながら泣きそうになるのを堪えた。
苦しい名前のつけようがないこの気持ちのほとんどは
醜さでできている。

恋愛なら、どんなにいいだろう。
恋愛なら、どんなに幸せだろう。

人を一途に思える可愛さが、純粋さが、心が私にはない。
あるのは三月の自由を奪ってしまうほどの醜さ。
自分の見える範囲内で、
首に鎖をつけて、どこにも行かないように――

「……ごめんね」

何に対して謝ってるのかさえ分からない。
抱きしめられた温もりも
足らない言葉も
握りしめられた手も
何もかもが嬉しかったけれど、そ
れは全て醜さのカタマリを大きく大きくするだけだった。

唯に頑張れと言ったこの口が憎いや。
一ミリたりともそんな事思っていなかった。

裏切られても仕方がない。
いじめられるならそれでいい。
目の前の大切なモノを失う怖さに比べれば
痛くはない。

恐る恐る手をのばして、細い毛に触れてみる。柔らかかった。