「唯の話、信じてんの?」
「信じるわけないじゃんよ。バカだよね、セツって。」
「三月の事、嫌いになりそうだった」
「ごめんごめん。」
「別にいいけどね。友達が一人減ったくらい。
私の人生に必要じゃなかったってわかっただけで」
「ドライすぎないか、セツさん。まぁ、俺がなんとかするから、怒んないでよ」

 体をゆっくり離れると、私は自然と恥ずかしくなって目をそらした。

「屋上、教えたのも少しショックだった」
「……」
「何黙ってんの!」
「……いや、かわいーと思って」

三月は答えようとせずに、そう言って笑って誤魔化した。

「別にここは私のもんでもなんでもないけど!でも……」

「わかった、わかったって。ごめん」

「……あーやだ……私何言ってんだろ……恥ずかしい。死ねる…。」

別に、付き合おうってなったわけでもないのに。

ただ

心にある、歪みは、確かに2人をつないだけれど。

温かみは、足らないものを、きっと何箇所か埋めたんだけど。

何かやりきれない

「……泣きそう」

「セツって意外と面倒な子だね」

「うるさい」

「教室帰れないでしょ?」

「あんたのせいでしょ。」

「まーそーなんだけどー。」

さっきの言葉がまるで嘘のように、三月はいつもの三月に戻った。

へらへらと笑いながら私の顔を見て言う。

「いいよもう。帰る。」

屋上を出ようと背を向けた私の腕が、ぐいっと引っ張られた


強制的に、体はまた三月のほうへ向けられる

「何」

「……俺、こんな形であれ、セツがそういう風に想ってくれてたなんて、
 すげー幸せ。」

「は……?」

「……もし、セツが……」

ぐっと握られてる腕に、三月が力を込めた。少し、痛い。

「……もし、何?」

「……や、なんでもねー」



 ぱっと腕が離れると、三月がまたへらへらと笑う。


「なんでもねーよ」


「……」


きっと、三月は付き合おうと言おうとしたに違いなかった。

そんな感情では、ないのに。

それはわかりきっているはずなのに。