「――セツ、やっぱいた」




陰に、重なる影


驚いて顔をあげる。

悲しそうな笑顔をした三月が

しゃがみこんだ私を見下ろして、言った。

すぐに視線をそらして俯く




「………」


「なんで探すの?だっけ」

「………三月、私行くから」

「どこに。」

「………っ。」

「噂って怖いな」

「……。」

「最高にむかついたから、仕返ししてやろうと思ったけど、
 俺、人気あること忘れてたわ」

「……」

「大事すぎるもんって、無性に壊したくなる時がある。」

「何言ってんの」

「でも理性がきく」

「は?」

「俺は、これを……何て呼べばいいのか、
 どういう気持なのか、大人になるにつれて、わからなくなった」

「……」

「でも、わからないままだった。
 ……それでも、大事にしようと決めたんだよ」

「……」

「怖いよな、気付けば気づくほど、わからなくなって。」

「……」

「こんなに近くにいるのに。俺は、戸惑ってしまう。触れていいものか、って」

「……」

「ほかの女なら、どってことなかったんだけどね」


「いみ、わかんない」



そう、言いながら、私は泣いていた。

三月が話す一言、一言に、重みがありすぎて、心に、響く

悲しそうな顔をして

小さく震えていた。


……触れたい。


そう思った。