【実話】ありがとう…。

「お願いだから、部屋に戻ってよ…」

涙がポロポロと落ちる。


「髪切ったら戻るよ!じゃあまたな」



「あったかさん…」


電話は切られてしまった―‐。


たかさん…お願いだから、不安になるような事しないでよ―。


掃除の途中だったにも拘わらず、心配で手に就かない。



30分後―。

家の電話が鳴った。

慌てて受話器を取る。

「もしもし」



「俺ー。髪切ったら、少し気持ちも落ち着いたのか、スッキリした」



「そう、良かった。でも、無茶はしないで!凄く心配したんだからね!」



「うん…。あっ、又薬変わるって。副作用酷いし、吐き気止めも効かないからさ」



「次の薬は効くと良いね!」



「おう。じゃあそろそろ戻るな!またな」



「うん、またね」

そう言い、電話は切れた。





11月26日。

愈々(いよいよ)、今日から抗がん剤が始まる。


昨日の夜からメールの返事が来ない。


朝、起きてからメールしたけど、やっぱり返事は無かった。


11時過ぎやっとメールが来た。


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宛先:望
Sb:

11時から、抗がん剤が始まった。