【実話】ありがとう…。

ベンチから立ち上がった瞬間、ポケットから携帯が落ち、バッテリーの蓋が外れた―。


「何このプリクラ…」


ミホとのチュープリ…がバッテリーに貼ってあった。


何でこんな物…残すの?

見たくなかったよ―‐。


気付かなかった私もバカだよね。


もう…どうでもいい。


貴方の使っていた携帯―。


こんなの見たら、もう使えない―。


「はぁー」

大きなため息を吐き、歩き出す。


このまま家には帰りたくなかった。


幼なじみが店をやっていたのを思い出し、店へ向かった。


店のドアを開けると、ビックリした顔の幼なじみ。


「久し振り」



「珍しいな。お前が一人で店に来るなんて」



「うん。ちょっと色々あってさ。家に真っ直ぐ帰りたくなかったし、雅巳(まさみ)が店やってるの思い出したから、来て見た」



「そっか…」


他の客に顔を見られたくなくて、カウンターの端に座る。


そんな望の様子に気付き、冷凍庫の中から氷を出し、ビニール袋に入れ目の前に置く。


「冷やしておけ」



「うん…ありがとう…」


何も聞かず、差し出されたビニール袋。


雅巳の優しさが胸に染み、涙が零れた―。