不快な熱風が和らぎ始めた頃、オレ達三人の組み合わせは、もはや自然なものと化していた。周りの奴らも、異様な光景を見ているような視線を向けていたのが、“あぁ、あいつらか”という風な見方に変わったらしい。無駄に騒がれなくなって、内心ホッとした。



「琥珀、ちょっとこれ解いてみろ。」

「え……出たー!動く点P!!」

「健!俺には何かないの?」

「お前にはこっちの問題。古典の苦手が改善されたか、ちゃんと見ないとな。」



 二人が回答している間、オレは文庫本の活字を追う。好きな作家の新作で、昨日から続きが気になって仕方なかったのだ。

 ――それぞれが、それぞれの時間を過ごしているだけ。それなのに、何故だか心地良かった。



「井上さーん。先生が呼んでるってさー。」



 クラスメイトの声がして、琥珀が「はぁい」と席を立つ。成績向上だと誉められるのだろうか。それなら、やる気に繋がるだろうな。そんなことを考えながら、「続き、今日の放課後までにな」と口にする。やけに嬉しそうに「うん!」と返事する彼女に、大嫌いだった筈の勉強だろう、と思わず笑みがこぼれた。



「……健、やけに機嫌いーじゃん?」

「そんなことはない。ただ、琥珀も成長したんだなと思っただけだ。」

「何それ!お父さんみたい!!」



 ていうか、仲良くなったね。そう言われて、少し考えてから、「……否定はしない」と返しておいた。