「おれ、石川と同じ大学受ける予定なんだ。石川は成績優秀だからまず受かるだろうし、おれも推薦だからほぼ問題ない。」

「……何が言いたいんだよ?」



 随分と楽しそうに言う渋沢に、段々と苛立ってくる。何なんだよ、はっきり言えよ。お前が真奈瀬のこと気に入ってんのは分かってるんだからな。

 “特別な人は居ない”なんて顔をしながら、ちゃっかり一人にアピールしてきたんだ、こいつは。きっと、学校中の噂になっているのを良いことに、周りの後押しも味方に付けるに違いない。人望が厚いっていうのは、そういうことだ。



「谷口は、大学行かないんだろ?その間におれがもらっちゃうかもなー。」



 じゃあな、なんて片手を挙げながら、部活に戻るらしい渋沢。短く切り揃えられた黒髪が揺れると、いよいよ宣戦布告されたんだなと分かった。

 ――そっか、同じ大学なのか……四年も一緒に居れば、真奈瀬もあいつのこと好きになっちゃうのかな。ぼんやりと思いながら、俺達の曖昧な関係について考えてみる。

 幼なじみって、近いのか遠いのか分からない。誰よりも相手のことを分かってるのは自分だなんて自惚れてたら、急に突き放されて。距離感が辛いと思っていたら、案外悩むようなことじゃなかった、なんてこともある。



「……つーか、大学に男なんていっぱい居るじゃん。別にお前だけが彼氏候補じゃねぇっつーの。」



 自分で言っていて悲しくなったので、密かに唇を噛む。空気が妙に冷たい。腕をさすりながら、俺は足早に廊下から去ることにした。