「……そんなに嬉しかったの?」

「うん!だって、美隼が居ないとつまんないんだもん!」

「……そっか。」



 小さく笑って、真奈瀬の頭に手をやる。伸びた髪の毛を梳(す)くように撫でてやると、「えへへ」と声に出して笑う幼なじみ。子供みたいで呆れるけど、ほっとけないんだよなぁ……俺、こいつに甘いのかも。



「ほら、朝メシ食うんだろ。下行くぞ。」

「はーい!」



 左手で鞄を持った真奈瀬が、反対の手で俺の右手を掴む。突然でびっくりしたけど、離してしまうのが惜しくて、そのままでいた。リビングに着くと、必然的にこの手は解かれてしまうんだから。

 真奈瀬の準備が整うのを待って、二人で通学路を行く。今はもう少し、このままで良い。こいつが“俺と居るのが楽しい”って思ってくれてるなら、それだけで満足だ。

 ――どうして、安心していたんだろうか。自分のことにだけ気を取られていたこの時の俺は、まだ“そんな悠長なことを言っていられない”と気付いてはいなかった。