半袖に変わった制服が、ぬるさを纏った夏の風に翻る。雑誌では流行りものと秋の先取りスタイルが紹介されている頃、モデル達は汗を流して冬物の撮影に取りかかっている。この業界は、そんなもんだ。

 この数週間は、真奈瀬から離れるかのように仕事に没頭していた。知り合いのデザイナーが俺をモデルに使いたいと言ってくれて、それが幼なじみと顔を合わせることが少なくなった大きな理由だった。



「美隼!ウチの秋冬コレクションのモデルの話、引き受けてくれてありがとな!」

「俺の方こそ、佐山さんのブランドを着られるなんて嬉しいです。声かけてくれてありがとうございます。」



 佐山恭司さんは32歳。四年前に、セルフプロデュースのブランド『mono.chrome』を立ち上げたばかりだ。

 服飾関係の学校を出てから某デザイナーのアシスタントを経て、瞬く間にファッション界のカリスマとなった佐山さん。無造作な長めの黒髪にすっきりとしたシャツとジーンズを合わせた彼は、洗練された雰囲気を放っている。



「ウチの服は“モノトーンで何処まで勝負できるか”にこだわってるから、子供にはまだ早いし、かと言って大人だと面白みがない。そういう微妙なラインを上手く表現してくれるモデルが欲しくてさ。俺の直感は“美隼しか居ない”って言ってたから、ほんと良かったよ!」



 ニカッと眩しい笑顔を浮かべた佐山さんは、誰かに媚びることがない、気持ちの良い人だ。こういう所が好きで、俺も慕ってるんだよね。