「……あのさ、あたしほんとソフトにしか興味ないから。野球もそりゃ楽しいけどさ、悪いけど転向する気はないな。」



 堅い決意を口にすると、「やっぱそうだよなぁ……」とうなだれる高須賀。「みんながお前欲しいって言ってんだけど、しょうがねぇな!」と言い、次の瞬間には清々しい笑顔で手を振って、グラウンド整備中のチームメイト達の元へ走っていった。

 ちょっと嬉しい一言ではあったけど、生憎心は動かない。小4から、あたしの意志は全く変わってないんだ。“上野由岐子投手のような選手になりたい”、と。



「佐桜花!早くしないと遅刻だよ!!」

「ごめんごめん!急ごっか?」



 香子が頷いたのを確認し、並んで走り出す。更衣室に入れば5分で着替え終わるのがあたし達の自慢だ。ただ、朝練限定なんだけど。



「今日も“あいつ”、ハーレム作ってんのかしらねー。また佐桜花教の信者達が怒り出すよ。」



 特に千代美が、と呟いた香子。“あいつ”か……そういえば、同じクラスだけど特に接点ないな。心で呟きながら、道を行く。

 紺色のセーラー服で春の匂いが漂う校庭を歩くあたし達。白いスカーフがヒラリ、風に遊んだ。