蒸し暑くなってはきたが、比較的爽やかな朝。散りかけの桜が、登校中のオレを見下ろしている。

 校舎に入るまでにも、後輩らしき女子や他校の名前も知らない女子が何人も声をかけてきた。口には出さないが、正直言って鬱陶しい。今朝は母親が茶碗を割ったとかでメソメソしていたから、苛々も倍増だ。



「あ!健おはよ!!」



 ニコリ、真夏の太陽のような笑顔を向けられる。笑って言葉を返そうとしたオレだが、思わず硬直。何故なら親友の後ろの席に座っていたのが、隣のクラスの金髪女だったからだ。



「健ちゃんおはよー!今日も超かっこいいねー!!」

「何で居るんだよ……」

「在君と話してたの!健ちゃんのこと色々聞きたくて!!」



 先日からオレの周りをチョロチョロしている井上とかいう女。どんなにそっけない態度を取っても冷たい言葉を浴びせても、まるで効果がない。ウチのクラスの雰囲気(主に女子)が悪くなっていることに、この女は気付いていないのだろうか。



「……井上、もう帰れば?オレ、在と用事あるから。」



 教室に居づらい。親友を引きずって廊下に出ると、井上は「そっか!じゃあねー!!」と言って自分のクラスへ戻った。

 あぁ、良かった。ホッとしたオレを見てクスクス笑っているチビを、ギロリと睨み付ける。とりあえず、話題を変えるか。