「佐桜花せんぱーい!今日も絶好調ですねぇ!!美景先輩悔しがってるぅ。」



 緊迫したグラウンドには不似合いなキャピキャピした声を出したのは、後輩である2年の安部千代美。ファーストから場違いなオーラを発して、美景を更に苛々させている。

 今にも“あんたソフトをナメてんのかぁ!?”と叫び出しそうな美景。そんな彼女に気付いてか、優しいチームメイト達が次々に声をかける。



「美景ドンマイ!“佐桜花教信者”に負けんな!!」

「リラックスですー!」

「さっちゃん!もう一球ー!!」



 おかしな宗教名が聞こえた気がするけど、無視。チラリとさっちゃんに目をやれば、一度だけ首を縦に振る仕草を見せる。あれはOKサインだ。あたしは美景に向き直り、香子と視線を交わらせる。そして、もらったサインに軽く頷いた。

 再び右腕を肩から回し、投球。ボールは美景に向かって矢のように飛んでいく。



「もらったぁーっ!」



 “狙い通りストレート!”そんな感情が隠った美景の声にクスリと笑う。あたしの相方も、同様に。

 ――だってあれは、“バットをかする直前で逃げる球”なんだから。