朝が苦手な尚美は、大概かおりを待たせる事になる。
「何やってるの!この子はもうトロトロしないで早く行きなさい」
母が尚美を叱りつける。
それは、毎日待たされるかおりに対して、母のすまない気持ちの現れであったのかも知れない。
尚美もそれは、重々感じていたが、その一方(8時に来てくれても8時10分のチャイムには間に合うんだから〕とも思っていた。
しかし、決してそれを口にする事はない。
何故ならそれが、良い結果をもたらさない事を、本能的に察知しているのである。    
尚美は、感受性の強い、繊細な子供である。
しかし、その豊かな感受性と繊細な心は、時として、尚美自身を傷つけ、暗い迷路へと誘う事になって行った。