「壱弥が『遅いから見てきて』って土下座するから仕方なく探しに来てやったんだけど……お前、ほんとに鈍くせぇ」
「べつに…鈍くさくないもん。それよりイチまだかかりそう?」
「あー…もうちょいかかるな、ありゃ」
気を取り直したように散らばった鞄の中身を拾い始めた芽衣に倣って、真鍋も腰を折ってノートやペンケースの中身を拾う。
「壱弥の鞄は?」
「イチの机の横」
芽衣の指さした先に壱弥の鞄を見つけ、真鍋が手にとる。それと芽衣の鞄を比較して苦笑。
「なに。お前の鞄だけ事故に遭ったのか?」
「事故っていうか、人災っていうか」
「なるほど。お前このクラスの女子全員に嫌われてるもんなぁ」
「うるさいな。いいの。……真鍋くんとかイチ、いるし……って、なに?」
視線を感じて芽衣が真鍋を見た。
すると目があった途端に、真鍋の掌が芽衣の顔をぐいと押す。
「いいか。そういう事簡単に言うから、勘違いする男が次々出てくるんだっつの。お前は馬鹿で鈍くさいけど顔は可愛いんだから気をつけろよ。男が全員俺とか壱弥みてぇな奴ばっかだと思ってたらそのうち痛い目みるからな」
「うん」
「ほら、ノートと筆箱」
「ありがと」
「足りないものは?」
「ないです委員長」
「よし。進路指導室戻るか」
「いえっさー」
敬礼のポーズをとって笑った芽衣に、真鍋も寄せていた眉を弛めて「ばーか」と笑った。
空模様は曇り。暗雲が空を覆って、今にも雨が降り出しそうな悪天候。
降ればいいのに。
廊下を歩いていく真鍋の後姿をぼんやりと視界に映しながら、芽衣は「降ればいいのに」とまた、声にならない声で呟いた。
