小悪魔は愛を食べる


「……はっ…ぅう」

余韻で緩みきった芽衣の唇をペロっと宥めるように舐めてやってから、絢人の視線は物音の方向へ。

絢人の不機嫌そうな鋭い視線に、物音を立てた人物は、これまた不愉快をあらわにして手近な椅子を蹴り飛ばした。

椅子が二度、角度を違えて床にぶつかった音が静かな校舎に反響する。

我に返った芽衣は目を瞬かせて、転がった椅子と、蹴り飛ばした人間を交互に見遣った。

「こんにちはー。壱弥の代理で華原のお迎えに来ましたー。来て早速ですが、倉澤くーん…そういうのされるとさ、マジ困るんだけど」

「そう?誰とキスしようが俺の勝手だよ。引っ込んでて」

「残念だけど、勝手じゃねーんだよな。華原に関しちゃ、この間の2ゴールみてぇにくれてやる訳にはいかないの。そもそもお前には里中がいるだろうが。うちの子にちょっかいかけんの止めてくんない?」

軽口のように聞こえる、軽快に走る言葉を並べ立てて男は芽衣の手を握っている絢人の肩口を掴む。

暗に放せと脅しているのだが、絢人は思いの外あっさり芽衣から手を離した。

「真鍋って結構根に持つタイプなんだ。次からは気をつけるよ」

拍子抜けした真鍋の手を肩から外して、無表情のまま踵を返した絢人を芽衣が首を傾げて見送った。

真鍋は苦虫を噛み潰したような表情で「相変わらずむかつく野郎だな」と吐き、しゃがみ込んだままの芽衣を見下ろす。

芽衣が不思議そうに真鍋を見上げた。