くい。と、絢人の指が芽衣の顎を押し下げ、甘い低音で内緒話でもするかのように囁く。
「くち…開けて」
「あ…う」
「目は閉じて」
動揺し、混乱している頭ではまともな思考には至らない。
芽衣は誘われるまま、口を開けて瞳をきつく瞑った。
「んぅ…っんん…」
子猫が鼻を鳴らすような可愛らしい鳴き声。
絢人は、随分可愛い声で鳴くな。と頭の浮ついた部分で冷静に考えながら、遠慮がちに開いた口の隙間に強引に舌先を割り入れ、怯えて奥へと引いた小さい舌を絡めとる。
「っん……ふ、ぅっ」
呼吸が苦しいのだろう。
芽衣の手が絢人の胸板や肩を叩いた。
しかし絢人はその手を握って、また深く深くと花弁のように綺麗な唇を貪り続ける。
ふと、相手がどんな表情をしているのか気になった。
絢人が、そっと目を開けて芽衣を窺い見る。
マスカラののった長い睫がふるりと弱々しく揺れて、端に涙の粒がひっかかっているのが更に絢人の苛虐心を余計に増徴させていく。
まずい。
自ら仕掛けたはずなのに、いつの間にか溺れてるのは自分の方ではないか。
そう気付きながらも、なぜか絢人の舌は芽衣の歯列をなぞり始めていた。
カタン。
物音がした。熱を帯びた頭にまるで冷や水でもぶっかけられたように、急速に興奮が引いていく。絢人は不機嫌そうに芽衣の唇を解放した。
