小悪魔は愛を食べる


がばっと勢い良く起き上がった芽衣が、床に座ったまま、打ち付けた後頭部と腰を擦る。
「いたいし…むかつく」と細い声でしょぼくれた芽衣に、壱弥がベッドから下り、芽衣の脇の下の手を差し込んで引き上げてやった。

「鈍くさい奴」

「うっせ」

「痛いのどこらへん?」

「頭と腰」

「ああ、なら平気か。今以上の馬鹿にはどう頑張ってもなりようがないし」

「なにそれー!腹立つー!!腰だって打ったもん」

意気込んで芽衣が腰を主張する。しかし壱弥は笑って芽衣の体を反転させると、ドアに向かってトンと背中を押し出した。

「洗顔と歯磨き終わったら交代な。髪は制服に着替えたら直してやるから」

「……」

そんなんじゃ誤魔化されませんという顔をしながらも、自分では寝癖を上手く直せない芽衣は渋々頷き、洗面所に向かって壱弥の部屋を出て行った。

「さて」

芽衣が出て行くと、壱弥は再びケータイの液晶に視線を戻してアドレス帳を開く。
通話ボタンを急くように数度押してコールする。早く出ろと自然に口が一文字に結ばれたが、コール四回で相手に繋がった。

『うっせーぞ。何時だと思ってんだ』

「七時過ぎです姫華さん」

『あー…用件は?』

「うん。昨日の」

『…あぁ。…芽衣、大丈夫?』

七恵と同じ事聞くなぁと思いながら壱弥は続けた。

「大丈夫、だと思うけど。いつもと変わんねぇし」

『そう』

「それだけ?」

拍子抜けしたと言わんばかりの言い草に、はあと溜め息が機械を通して伝わる。