「今起きないなら、その寝癖直してやんねぇからな」
「やだっ」
ばっと勢い良く顔を上げた芽衣に、「単純」と笑った。
そうしてむっとした芽衣の寝癖のついた髪を手櫛で整えてやりながら、壱弥が枕の下敷きになっていた自分のケータイを手にとる。
ぱかりと開くと、新着メールが一件。
『芽衣だいじょうぶ??』
「芽衣、だいじょうぶ?」
「えー…?なにが?」
「って、七恵からメールきたんだけど。芽衣、大丈夫?」
「だからなにが大丈夫?」
本気でなにがと訊いている芽衣に苦笑して、壱弥は液晶に向き直った。
「…『たぶん大丈夫』って返信しとく」
「うん?」
無骨な男の人の手が小さな携帯電話のボタンを器用に押して液晶に文字を並べていく。ポチポチという一定のリズムで刻まれる音を聞きながら、芽衣はふぁと欠伸をしてベットから下りた。
「先に洗面所使うよ?」
「ん」
未だ打ち終わってないのか壱弥は視線を落としたまま頷く。それを受けてドアへ向かおうと足を踏み出したその瞬間、下から何かに足を引っ張られたような感覚が芽衣を床に転倒させた。
ゴンッ
鈍い音を立てて転がった芽衣に、壱弥が目を白黒させて「え」と戸惑いをこぼす。
「…………踏んだ」
「は?」
「裾、踏んだ」
引っ繰り返ったまま背中を床につけて芽衣が呟く。その『裾』という単語が芽衣のパジャマのズボンの裾であると気付いた壱弥は、途端に吹き出した。
「ばっ、馬鹿か!おまえ、マジありえねぇっ」
「うっさいー!そんなのわたしが一番そう思ってるから!」
