小悪魔は愛を食べる


「美央ちゃんが浴衣縫ってくれるって言うからお願いしちゃったのよね。悪いんだけど、今度芽衣ちゃん連れて華原のお家まで寸法計りに行ってくれる?」

「浴衣ねぇ…うん、わかった。それより美央さんも元気だった?」

「そりゃもう、すんごく元気だったわ。私も年ね、なんて思っちゃったくらいよ」

やだやだ。
呟いて、紗江子は缶ビールを一本冷蔵庫から取り出して、壱弥に手渡す。

「飲むでしょ?」

「飲まないよ」

「あらそう。じゃあテーブルにのせといてくれる?」

鼻歌でも奏でそうな勢いの紗江子に半分呆れながらも、壱弥はリビングのテーブルに缶ビールを置いた。
指についた水滴をぺろりと舐める。冷たさが舌に気持ち好かった。

「なーに沈んでるのよ!」

「っ!?」

声と一緒に背中に大きな衝撃があり、予期していなかった事に壱弥がうっと息をつめ、次に激しく咽た。

「あら…大丈夫?」

「し、しんじらんねぇ…もっと加減して叩けよ」

げふげふ咽ながら涙目で訴える。しかし紗江子はふふんと笑って「鍛え方が足りないか、注意力散漫なのよ。野生の王国では敵に背中を見せた奴から食われていくんだから、そんなんじゃ生き残れないわよ。真紘さんなんてこんなの余裕で避けるんだからね」と変な自慢をした。