「うちのクラスの子が言ってた」
沈黙。数秒が数分にも数時間にも数えられそうなくらいの、気まずい沈黙が流れた。
けれど、くしゅんと七恵がくしゃみをして、沈黙は消える。
姫華がゆっくり頷いて、咽の奥から捻り出したような掠れた声で淡々と告げた。
「…うん。本当。けど、すぐ別れた。一週間も続かなかったんじゃなかったっけ」
「なんで?」
聞いちゃいけない。そう思いながら、七恵は自分の口を塞ぐ事が出来なかった。
申し訳なさと、戸惑いで姫華を見遣ると、ふっと赤い唇から緊張が抜け落ちた。
「芽衣が、泣いたから」
胸が苦しかった。
姫華だって、壱弥が好きなのに。
なのに、壱弥は芽衣以外見ていない。
どうでもいいのだ。
世界中できっと芽衣だけが壱弥を揺さぶる女の子で、それ以外は泣こうが喚こうがどうだっていい。
壱弥は優しいけれど、根本的に醒めているんだと、いつの間にかどこかで気付いていた。
気付いていたけれど、それでも好きなのだ。きっと姫華も、そうなんだ。
やんわり握った姫華の指先がひくりと震えたのを、気付かないふりでまた強く握り直した。
