「ううん。隠される方が悪い。明日からは毎日持ち歩けって言ってやった」
「え……」
「でね、絶対泣くと思ったのよ。私って口調きついし。内容も内容だったし。そしたらその美少女さ、笑ったの。すっごい可愛い顔で笑って、『そっか。ありがとう』って」
マジびびったよあの時は。と語る姫華に七恵が頷く。
「ま、それが芽衣だったんだけど。私もね、そんな素直に返されると思ってなかったからついポカンてアホみたいに口開けちゃってさ」
「うん」
「そうしてるうちにイチがどっかから芽衣の靴持って来て、問題は解決したんだけど」
「…したんだけど?」
「芽衣がね、帰り際言ったんだよね。『ばいばい、姫華ちゃん』て」
泣くんじゃないかと思った。姫華が、泣くんじゃないかと。それくらい、切ない表情でいとおしむように優しく丁寧に紡がれた言葉だったのだ。
七恵は静かに唾を飲んだ。
「一年の最初しか学校行ってなかったのに、芽衣は私の名前知ってたんだよ。吃驚した。話したこともないのに、クラスも違ったのに。けど、嬉しかった。嬉しくて、担任に聞いたんだ。芽衣ってどういう子なのか。そしたら担任の奴、それはあなたが直接自分で話しかけて知るべきことよ。って笑いやがって……なんかさ、よくわかんないけど、次の日教室行けたの。
芽衣、同じクラスだった。女子みんなにシカトされてた。ムカつくから調子乗ってる感じの女の机蹴り飛ばしてやった。そしたらヤクザの子供は怖いねってクスクス笑われた。違うっつっても、誰も私の言葉なんて聞いてなかったんだ。仕方ないけど。やっぱ机蹴ったのがインパクトでかかったし。でも、イチがさ……違うって言ってんのに何決め付けてんの?って庇ってくれて。正直言うとね、私の初恋ってイチだったんだよね」
「えぇ!?」
